参考文献リストの作り方

はじめに_

本ページの想定読者は埼玉大学工学部情報システム工学科/情報工学科、および、大学院理工学研究科博士前期課程情報システム工学コースの学生である。特に先端情報システム工学研究室(後藤研究室)の学生を対象としている。ある程度は共通する部分はあるが、細かい点で差異はあると思われるので他の研究室の学生は指導教員の指示に従うこと。

また、LaTeXおよび学科のLaTeXテンプレートファイルを用いて卒業論文、修士論文を作成することを前提としている。

黄金律_

以下の事柄は論文を含むすべての報告書について通じる話なので必ず守ること。 「文書内では形式や表記法を統一すること。」

参考文献リストでいえば、著者名の表記、論文タイトルの表記などを統一する(文献ごとに表記方法が異ならない)こと。これを守るだけで、読みやすい論文・報告書になる。

手順1: 参考文献リストに載せる文献を決める_

英語だと「References」、日本語だと「参考文献」となっているが、研究で「参考にした」文献を列挙する場所ではない。論文中で参照した文献情報を列挙する場所である。この大前提に従い、参考文献リストに載せる文献を決める。

何が参考文献となりえるのかは指導教員に相談すること。

手順2: 文献の種類を判別する_

次に文献を種類ごとに分ける。なぜ、このようにするのかというと文献の種類ごとに記載すべき文献情報が異なるからである。記載すべき文献情報が違うことを確認するために以下のページをざっと眺めてみてほしい。

論文は大きく分けると以下の種類に分けられる。

  • 学術雑誌論文 (Journal paper)
  • 論文集論文 (Conference paper)
  • 論文集シリーズや単行本に収録された論文 (Proceedings series)
  • 博士、修士、卒業論文 (Thesis)
  • プレプリントサーバー (Preprint server)

他にもいろいろな文献があるが計算機科学の分野で良く参照される文献の種類は以下のとおりである。

  • 単行本 (Book)
  • Webページ (Web site)

万能ではないが、以下の手順で文献の種類を判別し、分けていく。

  1. 論文とその他で文献を分ける

    Webサイトで公開されていたとしても、論文の体裁をとっているならば論文とみなしておく。

    • 単行本の場合
      • 出版されているものは単行本とする。
      • 出版されていないが行政機関や会社・各種団体がPDF形式などで公開している報告書は単行本とみなす。
    • Webページの場合
      • PDF形式の資料を参照している場合は報告書あるいは論文とみなした方が良い。
      • それ以外のものをはWebページとする。
  2. 論文を巻(Volume)や号(Number, NoやIssue)がついている論文とそうでない論文に分ける

    学術雑誌論文や論文集シリーズや単行本に収録された論文は、文献情報に巻(Volume)や号(Number, No. やIssue)の情報が含まれている。そこで、まずこの基準で論文を分類する。

  3. 巻号がある論文を学術雑誌論文と論文集シリーズや単行本に収録された論文に分ける
    • 論文集シリーズや単行本の場合
      • 文献情報に、著者(Author)の他に編者(Editor)が含まれている。
      • 文献情報に、雑誌名・シリーズ名とみなされるものの他に書名(Book title)が含まれている。雑誌名とシリーズ名の区別がつかない場合はGoogleで当該雑誌名・シリーズ名を検索し、同じ雑誌名・シリーズ名で書名の異なるものが複数あればシリーズ名と判定してよい。例えば情報系で有名なシリーズ名「Lecture Notes in Computer Science」で検索してみると感じがわかる。
    • 学術雑誌論文の場合

      上述の条件をみたさない論文

  4. 博士、修士、卒業論文を判別する
    • 基本的に参照しようとしている事柄について、外部発表論文(学術雑誌論文、論文集論文、論文集シリーズや単行本に収録された論文)に記載されているならば、そちらを参考文献として用いる。理由はそちらの方がアクセスしやすいため。そのような外部発表論文が存在しない場合は、学位論文(博士、修士、卒業論文)を参考文献として利用する。
    • 学位論文は著者名は1人で指導教員(Supervisor)および所属組織(大学名&部署名)が記載されていることが多い。また、近年(2010年以降)は配布も当該大学の機関リポジトリで公開されていることが多い。
  5. 論文集論文を判別する

    以下が文献情報に含まれていることが多い

    • 英語論文の場合 Conference, Symposium, Workshopという用語
    • 日本語論文の場合 全国大会、研究会、ワークショップ、シンポジウムという用語
    • 会議の開催回数。英語の場合 「The X-th ....」、日本語の場合「第X回」。
    • 会議の略称+西暦。たとえば「ICSESS 2014」。
  6. プレプリントサーバ論文を判別する。
    • プレプリントとは、雑誌や会議へ投稿する前段階のバージョンの論文のこと。雑誌や会議へ投稿してから採択され、掲載されるまで数年間~数か月かかることが一般的なため、即時性が重要な分野(医学、計算機科学)や一部の学術分野(数学など)ではプレプリントを公開する習慣がある。
    • 現在では、機械学習関連の論文は新規性を確保するために、ソースコードやデータセットを公開し、追試可能な状況にしたうえでプレプリントを公開することが一般になっている(それぐらい技術革新が早い)。
    • プレプリントサーバやプレプリントリポジトリはプレプリントを公開するサービスである。
    • 上述のとおり、プレプリントは「雑誌や会議へ投稿する前段階のバージョンの論文」のため、外部発表論文として掲載されている場合はそちらの文献情報を用いる。そこで、Google Scholarで当該論文タイトル&著者を検索し、外部発表されていないかを確認する。外部発表されている場合は、上述の判定基準で適切な分類として分類する。
    • 外部発表されていない論文の場合は、プレプリント論文として分類する。

上記手順に従うことで大まかに文献を分類できる。分類しきれない文献については次のステップで確定させる。

手順3: 各文献の種類ごとに足りない情報を調べ、補う_

2023年時点で、多くの論文はGoogle ScholarやWeb of Scienceなどの論文検索エンジンやScience Directなどの論文データベースからPDF形式で入手していることと思う。

最近は論文検索エンジンや論文データベースが文献情報を提供してくれているが不十分な点がある。

  • そもそも文献情報として不正確である(文献の種類を誤認していたり、一部情報が誤っていたりする)。
  • 文献情報が欠けている(論文集掲載論文なのに、会議開催場所情報が抜けているなど)。
  • 書式が論文検索エンジンや論文データベースごとに異なる。

このため、手間はかかるが文献の種類ごとに必要な文献情報を補う必要がある。

以下の手順で文献種類ごとに各文献について文献情報が足りているかを確認する。その際には、Zoteroなどの文献管理ソフトウェアに文献情報を保存すると良い(参考:文献管理ソフトZoteroとBibTeX)。

  1. ある文献種類を選ぶ。
  2. 先端情報システム工学研究室における学位論文の参考文献形式の当該文献種類の項を参照し、当該文献種類で必要な文献情報を確認する。
  3. 各文献について以下を繰り返す。
    1. 論文の場合はPDFファイルの配布元のWebサイトを開く。GoogleやGoogle Scholarの検索結果から直接PDFファイルをダウンロードした場合は、大本のWebサイトを探して開く。単行本の場合はAmazonや国立国会図書館で当該の本のページを開く。
    2. 足りていない文献情報を当該Webサイトから探す。特に注意すべき点を以下に列挙する。
      • 会議や雑誌の略称しか記載されていない場合は正式名称を別途しらべて、正式名称と略称の両方を記録する。
      • 雑誌掲載論文についてもその雑誌の発行年月を調べておくとよい。
      • 著者名(author)や編集者名(editor)の名前がイニシャルになっていることもある。正式名称を別途調べて記録する。
      • Lecture Notes in Computer Science (LNCS)などの論文集シリーズは書名に本タイトルと副タイトルが存在する場合がある。副タイトル込みで記録する。たとえば、こちらの文献の書名は本タイトルが「Reliable Software Technologies Ada-Europe 2000」であるが、副タイトルは「5th Ada-Europe International Conference Potsdam, Germany, June 26-30, 2000, Proceedings」である。「Reliable Software Technologies Ada-Europe 2000, 5th Ada-Europe International Conference Potsdam, Germany, June 26-30, 2000, Proceedings」として記録しておく。
      • 学位論文については大学名だけでなく、部局名(学部・学科、研究科・専攻)も記録しておく。
      • Webサイトについては、Webサイトの作成者・作成団体も調べて記録する。また、製品のWebサイトはWebページのタイトルに宣伝文句が含まれている場合があるので、そのような宣伝文句を除いたページ名を記録する。
  4. 次の文献種類についても同様に調べる。

手順4: 表記をそろえる_

続いて、文献種類ごとに参考文献リストを作成してみる。書式は先端情報システム工学研究室における学位論文の参考文献形式に従うこと。学位論文(卒業論文、修士論文、博士論文)についてはページ数の制限がないため標準形式、発表会・審査会の予稿や発表スライドの場合はページ数やスペースに制限があるので短縮版で作成すること。

その後、全文献を通して表記をそろえる。

論文指導の際に頻繁に指摘する項目について以下に列挙する。一項目ごとに全文献を確認すること。

記号・句読点の半角/全角文字の統一_

参考文献リスト中は日本語文献であったとしても句読点(カンマ、ピリオド)、スペース記号、コロン(:)は半角文字を使うこと。

姓名の表現の統一_

著者名および編集者名について表記を統一すること。

英語文献の場合は西洋式(western style)で表記する。 “First name” “Middle name” “Family name”

表記例:後藤 祐一(Yuichi Goto)を例に

  • Yuichi Goto (標準的な表記)
  • Yuichi GOTO (姓を大文字で表記)
  • Y. Goto (名前をイニシャルで表記)
  • Goto, Y. (姓を前に置く場合の表記)

参考文献中は姓名の表記をどれか1つに絞ること。混ざっていてはいけない。基本は標準的な表記に統一する。発表スライドや予稿などページ数やスペースに制限がある場合は、名前をイニシャルで表記する。

そして、著者や編集者が複数名の場合は列挙の仕方を統一すること。英語文献の場合は列挙する際にandを使うかどうかの選択がある。

  • Yuichi Goto and Jingde Cheng (2名の場合)
  • Yuichi Goto, Hongbiao Gao, and Jingde Cheng(3名以上の場合は最後の姓名の前を「, and」とする)
  • 後藤祐一, 高 宏彪, 程 京徳 (和文の場合はカンマのみ)

基本は英語文献ではandを用いる。andを使わない場合は2名のときもandを使わないようにする。

論文タイトルおよび書名の表現_

タイトルや章・節タイトルの表現は3つほどある。2番目の表現はあまり使われない。

  • 文頭だけ大文字

    An epistemic programming approach for automated nonmonotonic reasoning based on default logic

  • すべて大文字

    AN EPISTEMIC PROGRAMMING APPROACH FOR AUTOMATED NONMONOTONIC REASONING BASED ON DEFAULT LOGIC

  • 単語の一文字目だけ大文字

    An Epistemic Programming Approach for Automated Nonmonotonic Reasoning based on Default Logic

1番目か3番目のどちらか一方で統一すること。

3番目の規則で統一する場合はSpringer: TEX 2ε Class for Lecture Notes in Computer Science Version 2.4の規則に基づき大文字化する単語を決める。

  1. すべての単語の1文字目は大文字にする
  2. ただし、以下の単語は大文字にしない(文頭を除く)
    • 接続詞(and, or, but)
    • 前置詞(on, of, by, from, with, without, under)
    • 冠詞(a, an, the)
  3. なお、コロン(:)の次の単語は文頭扱いする。

    例「Practical Usage of FreeEnCal: An Automated Forward Reasoning Engine for General-Purpose」

著者名と論文タイトル/書名の区切り_

以下は私が見たことある表記である。

  • コロンでつなぐ

    Yuichi Goto, Takuya Ito: An epistemic programming approach for automated nonmonotonic reasoning based on default logic, ...

  • 引用符(“”)で囲う

    Yuichi Goto, Takuya Ito, ``An epistemic programming approach for automated nonmonotonic reasoning based on default logic,'' ...

  • カンマのみ

    Yuichi Goto, Takuya Ito, An epistemic programming approach for automated nonmonotonic reasoning based on default logic, ...

  • ピリオドで区切る

    Yuichi Goto, Takuya Ito. An epistemic programming approach for automated nonmonotonic reasoning based on default logic, ...

本研究室ではコロンで著者名と論文タイトル/書名をつなぐこと。

論文集を表す表記の統一_

会議名の前に以下を追加する。

  • Proceedings of

    …, Proceedings of the 5th IEEE International Conference on …

  • Proc.

    …, Proc. the 5th IEEE International Conference on …

どちらか一方に統一すること。

論文集シリーズ・単行本内収録の表記の統一_

以下のように表すことが多い …, in 編集者1, 編集者2, …, 編集者n (eds), ``書名,'' …

  • 編集者の表記は著者の表記と同じにする。スペースが足りなければ名前(first name)をイニシャルにして良い
  • 編集者が複数名ならば (eds)、1名ならば (ed)
  • 書名の表記は論文のタイトルと同じにする
  • LaTeXの場合引用符は半角文字のバッククォート2つ(``)とシングルクォート2つ('')で記載する。
  • Office製品の場合は引用符だけ全角文字を用いるか、半角文字のダブルクォートを使う。

会議名、雑誌名、シリーズ名の表記の統一_

略称を用いる場合は同一の会議、雑誌、シリーズについて略称で統一すること。ただし、基本的には正式名称を用いる(略称を用いない)。

巻号、ページ番号、記事番号の表記の統一_

英語文献の場合

  • 巻は Volume, Vol., vol., のどれか一つに統一する。通常は Vol.
  • 号は Number, No., no., Issueのどれか一つに統一する。通常は No.
  • ページ数は1ページの場合は page または p.のどれか一つに統一する。通常は p.
  • 2ページ以上の場合は、pages または pp. のどれか一つに統一する。通常は pp.
  • オンライン出版でページ数がない場合は記事番号を記載する。記事番号の記載方法は、まだ確定したものがないので、必ず配布元にて記事番号を確認した上で「Article e記事番号」と記載する。

出版年月の統一_

英語文献の場合

  • 「月 年」の順番で記載する。 例: September 2023.
  • 月を略す場合はすべての文献で同様にする。 例: Sep. 2023.

日本語文献の場合

  • 「XXXX年Y月」と記載する。例:2023年9月.

論文集掲載論文は必ず月を記載する。他の文献も可能な限り月を記載する。

(LaTeXのみ)省略のピリオドの後ろの半角スペースの数を統一する_

LaTeXではピリオドの後ろに自動的に 2つの半角スペース挿入する。このため、省略のピリオド(たとえば pages の略のpp. など)の後ろにも2つの半角スペースを入れてしまう。参考文献では省略のピリオドを多く利用するため、強制的に半角スペース1つにする必要がある。

LaTeXでは半角バックスラッシュ(Windows上だと半角の円マーク)+スペースで強制的に半角スペース1つを指定することができる。たとえば、以下のように入力します。

Y.\ Goto (イニシャル表記)
Vol.\ 2, No.\ 3, (巻号の省略表記)
pp.\ 233 -- 245, (ページの省略表記)
Sep.\ 2023. (月の省略表記)

(LaTeXのみ)エンダッシュ(ちょっと長いハイフン)を使う_

参考文献リスト中のページ数を表す際にはハイフンではなくエンダッシュを使うことになっている。しかし、エンダッシュはASCII文字にない。LaTeXでは、ハイフン2つをエンダッシュに変換してくれる。

以下のように書く

pp.\ 245 -- 256

手順5: 文献を著者の姓・組織名で辞書順に並べる_

参考文献の並べ方は参照順(本文中で参照された順番)と著者の姓・組織名の辞書順の2つがある。編集の容易さから著者の姓・組織名の辞書順で並べる(参照順だと本文を修正するたびに参考文献を並べ直さないといけない)。

次の手順で並べる。

  • 英語文献を列挙したあとに日本語文献を列挙する。
  • 英語文献は著者名の姓あるいは組織名でA~Zの順に並べる。
  • 日本語文献は著者名の姓あるいは組織名であ~んの順に並べる。

手順6: チェックリストに従い見直す_

一度、参考文献を作成したら保存し、翌日に見直す。当日に見直すと間違いを見つけられない。

見直す際には以下のリポジトリから「CheckListForTheses-ja.pdf」を入手し、「1.5 参考文献リスト」の参考文献リストの書式に関するチェックリストを用いてチェックすること。

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