学位論文の論文構成案の作成手順

はじめに_

論文をいきなり書き始めるのは、職業研究者であっても難しい。まずは論文の全体像(どこに何を記載するのか)を設計し、それに肉付けしていくことで論文をステップバイステップで書くのが一般的である。

論文構成案は、どういう章立てにするのか、各章や節、小節にはどういう話題(トピック)を書くのかを示したものである。

論文構成案の考え方_

文書の構成_

文書の最小構成単位は文である。文は主語と述語を含んでおり、句点「。」あるいは「.」で終わるものである。箇条書きをする場合を除き、単語や句(複数の単語からなる意味を成す塊)は最小構成単位にならない。また、体言止めは使ってはいけない。

文が複数集まったものを文章という。

論文を始めとする報告書においては、ある話題(トピック、topic)を説明するための文章を段落(パラグラフ、paragraph)という。小・中学校で書いてきた「作文」では、段落は感覚的に作成するものであるが、報告書においては、話題ごとに段落を作成する。話題ごとに段落を構成するという意図を強調するために以下では段落のことをパラグラフと記載することにする。パラグラフは中心的な文であるトピックセンテンス(topic sentence)とトピックセンテンスを説明するサポートセンテンス(support sentence)から構成される。

参考:

論文において文章の最小構成要素は段落ですが、学位論文の最大構成要素は章(Chapter)となります。1つの章を複数の塊に分解する場合は節(Section)、1つの節を複数の塊に分解する場合は項・小節(Subsection)、項をさらに分けたものを目・小小節(Subsubsection)という。包含関係をまとめると以下のようになる。

  • 章(Chapter)
  • 節(Section)
  • 項・小節(Subsection)
  • 目・小小節(Subsubsection)

学位論文は少なくとも複数の章から成り立つ文書である。 節、項・小節、目・小小節を使うかどうかは「読者にとって読みやすいかどうか」によって決める。

パラレリズム(Parallelism)_

パラレリズムとはどういうものかというと

同じものは同じように書く

特別にライティングの勉強でもしない限り、パラレリズムという単語を知る機会は少ないだろう。しかしパラレリズムそのものは、別に難しい理屈の必要な概念ではない。要するに、2つ以上のことを対比や列挙して書くときには、文章のうえでもその関係が明確になるように形式を統一しろということだ。

構成案の段階でパラレリズムの考え方で気にすべきことは「パラグラフ/目/項/節が1つしかない章/節/項/目はダメ」ということである。

たとえば、ある章を節に分ける場合を考える。このとき、章の中に節が1つしかないのはパラレリズムの観点から良くない。たとえば、以下の例では「はじめに」という章の中に「目的・目標」という節しかない。このような節を作ってはいけない。なぜならば、話題の塊が1つしかないならば、節を新たに設ける必要はないからである。

例:
1. はじめに
1.1 目的・目標

2. 専門用語と概念の定義
~以下略~

学生のみなさんでありがちなのは、節/項/目の中にパラグラフが1つしか存在しないという事例。節/項/目タイトルがパラグラフの「見出し」になってしまっている。書きやすいのかもしれないが、読みやすいわけではない。1パラグラフしかないならば節/項/目に分けないこと。

参考:

黄金律_

他人の仕事(先行研究)と自分の仕事の記載を入れ子にしない_

他人の仕事を自分の仕事ののように記載するのは盗用という研究不正になる。他人の仕事と自分の仕事を明確に区別できる論文構成にすること。

具体的には他人の仕事についての説明は第2章から第n章までに終え、第n+1章から「おわりに」の前の章までは自分の仕事について記載すること。大まかには第2章~3章で他人の仕事や自分の仕事を理解してもらうために必要な前提知識を説明する。4章以降は自分の仕事について説明する。

必要な情報を事前に提示しておく_

多くの読者がページ順に論文を読んでいく。このため、ある章を読む際に理解しておいてほしいことは、その章の前章までで記載しておくこと。前節の規則と合わせれば、論文の構成を考える際には、自分の仕事に関係する章から内容を検討し、それを理解してもらうために必要な情報を逆算して、2章や3章の内容を考えるのが良い。

情報の空間配置_

読者にとって理解しやすい枠組みがあるのでそれに従い情報を配置する。

  • 全体から部分
  • 抽象から具体
  • 過去、現在、未来

構成案の作成手順_

学位論文の構成案の内容_

学位論文の構成案は以下のものから構成される。

  • タイトル(日本語、英語)
  • 著者名
  • 論文の構成(章・節・項・目のタイトルとトピックセンテンス)

概要は構成案が決まってから作成した方が楽なので、構成案の時点では考えないでよい。

タイトルについて_

論文のタイトルは、論文の内容を一番短くまとめたものである。このため、タイトルと論文の内容は一致していなければならない。日本語論文を書く場合でも、必ず日本語と英語の両方のタイトルを考えること。

DeepLやGoogle翻訳などを使って英語タイトルを考える際にも、翻訳結果をそのまま採用するのではなく、英語タイトルを日本語タイトルに再翻訳して意図したとおりの日本語タイトルになっているかどうかを確認すること。

英語タイトルに翻訳しやすい日本語タイトルは修飾語の係り受けが明確(誤読しにくい)ということなので、適宜、日本語タイトルの方も修正すること。

著者名について_

学位論文(卒業論文、修士論文、博士論文)では、必ず著者は1人である。

作成手順:先輩の卒業論文/修士論文を真似する_

論文の内容を丸ごとコピーしてしまうのは剽窃になるので不正行為だが、論文の構成を真似るのは問題ない。そこで、自分の卒業研究/修士研究と似たような研究をしている先輩の卒業論文/修士論文を探し、その構成を真似すること。

具体的には過去10年分ぐらいの修士論文、卒業論文を眺めて、似ている研究を探してみる。研究室内限定であるが、修士論文、卒業論文は研究室のWebサイトから入手できる。ソースコードについては研究室のパスファインダーの方を見ること。

作成手順:研究成果を理解するのに必要な用語・概念を列挙する_

学位論文で何を書けばよいのか検討するために、研究成果を理解するのに必要な用語・概念を列挙してみる。その際にはゼロから考えるのは難しいので、収集した修士論文や卒業論文、参考文献などを適宜参照する。

工学系の研究の基本構造は以下のようになっている。

  • 問題がある
  • その問題の解決法を提案する。
  • 提案した解決法で問題が(一部)解決・緩和したことを示す。

そこで、解決する問題、提案する解決法、問題が(一部)解決・緩和したという証拠をどう説明するかを検討し、それらを他の研究室の学生や教員が理解するのに必要な用語や概念を列挙する。

思いつくままに列挙するのがよいので、ポストイットやマインドマップなどを利用して用語や概念を列挙してみる。列挙のさいには説明しきれるかどうかは、一旦、忘れて列挙する。

参考:マインドマップのソフトウェアの例

  • XMind(無料お試し版もある)

作成手順:情報を配置する_

上述の「黄金律」の項で説明したとおり、他人の仕事と自分の仕事は分けて記載する。また、必要な情報は事前に提示しておくこと。この原則に従い、列挙した情報をどの順番で提示していくのかを整理する。

ポストイットやマインドマップなどを使って、提示する情報をグループ化する。グループ化した情報にタイトルをつける。それがトピック(の一部)となる。その後、説明する順番を決める。

作成手順:トピックおよび章・節・項・目のタイトルを決める_

参考にしている修士論文・卒業論文の構成を真似しつつ、トピックおよび章・節・項・目のタイトルを決める。トップダウン(章タイトルを先に決めて、その後、章の中身を考える)が良いか、ボトムアップ(トピックから考えて、複数のトピックをまとめる上位区分を考えて、章のタイトルへ至る)が良いかは人によって異なるので、やりやすい方法で考える。

章・節・項・目のタイトルについての注意事項は、卒業論文・修士論文自己チェックリストの「1.4 目次」を参照のこと。

トピック間の関係に注目し、情報の空間配置の原則に従い順序を調整する。トピックが同じ粒度(説明の詳しさが等しい)になっているかも検討する。粒度が異なる場合は、トピックを分割したり、統合したりして、粒度を調整する。

作成手順:トピックセンテンスをつくる_

科学技術文書(論文も含まれる)は、歴史的理由により英語のパラグラフの概念を導入している。パラグラフについての説明を、パラグラフ・ライティング指導入門の第2章「パラグラフ・ライティングとはなにか」から引用する。

(p. 20より)パラグラフとは「書き手が主張したい1つのアイディアについてその主張がはっきりするように論理的展開によってサポートすること」とまとめられるでしょう。"One idea, one paragraph" といわれるように、1つのパラグラフの中では1つのアイディアのみが展開され、別のアイディアが入ってくるような不整合性を排除します。別のアイディアを述べなくてならないときはもう1つのパラグラフを用意しなければなりません。

(p. 21より) 英語のパラグラフには冒頭にトピック・センテンスがあり、それをサポーティング・センテンスが支えています。

日本語論文でも、このパラグラフの考え方に従って文章を構成しなければならない。1つのパラグラフは1つの話題(トピック、アイディア)で構成される。1つのパラグラフは、トピック・センテンスを詳しく説明することで構成される。日本語の文書の場合は、「1つのパラグラフ=1つの話題」という規則がなく、感覚や読みやすさでパラグラフを構成しているが、論文では必ずパラグラフのルールに従ってパラグラフを構成しなければならない。

論文構成案では、各章、節、小節にどのような話題を配置するのかを明確にするために、段階に応じた詳細度のトピックセンテンスを記載する。

  • 初めて指導教員に構成案を提出する場合

    節 or 小節で説明したいトピックのトピックセンテンスを書く。

  • 指導教員に構成案についてOKをもらい、原稿の第0稿を作る前段階の場合

    各パラグラフごとのトピック・センテンスを書く。

以下の例は、小節中に複数のパラグラフが存在する場合のトピックセンテンスの記載例である。一つのトピック(パラグラフ)につき、そのトピック・センテンスを一文とし、各トピック間には空行をいれて書く。たとえば、以下のように書く。

3.1 **の要求定義

トピック1

トピック2

トピック3

もし、どうしてもトピックが1行でまとめられない(トピック・センテンスにできない)場合には2文になってもかまわない。

なお、「この章では***を書くつもり」や 「この章では***をまとめる」、「ここでは?を書く」というはトピック・センテンスではない。また、自分がトピック・センテンスとして書いた文章を見直し、その文章が別のトピックのトピック・センテンスを説明するものになっていないかを確認すること(すなわち、実はサポーティング・センテンスでないかを確認すること)。また、箇条書きもトピック・センテンスではないので注意すること。

構成案の指導を受ける方法_

構成案の提出方法_

メールでやりとりしつつ、論文の構成案を固めていく。

  • 形式_
    • 提出方法: メールで全員宛へ出す
    • 件名:メールの件名を以下の鈎括弧の中のようにする「(修士か卒業)論文構成第N案(名前)」 たとえば、修士の後藤が第一案をだすのであれば、 「(修士)論文構成第1案(後藤)」
  • メールの内容:
    • 題目(日本語&英語)

 * 著者名

  • 章タイトル、節タイトル
  • 各章 or 節ごとにトピックを各一文ずつ(トピックセンテンス)で記載する

論文構成案の例__

タイトル:
 日本語タイトル
 英語タイトル

著者
 後藤 祐一


1. はじめに

 *****を行うには***が不十分であるという問題があった。

~中略~

6. おわりに

 6.1 まとめ

     ****を***することを実現した。

 6.2 今後の課題

  ****について****を行う必要がある。

参考文献
付録A. XXXX
付録B. XXXX

指導への対処について_

自分宛の構成案の指導メールだけでなく、他の学生への構成案の指導メールにも目を通し、自分の構成案を見返すこと。

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